基礎から学ぶ遺言相続講座(遺言12)

遺言書を作成するに当たっての留意事項は?

1 不動産を相続させる旨の遺言をするには、共有としないことです。

 仮に、共同相続人の共有とする遺言を作成した場合には、将来、その不動産を売却・大規模修繕・賃貸するときには、共有者全員の同意(売却・大規模修繕のケース)や持分の過半数の同意(賃貸のケース)が必要になってしまいますので、結果として売却・大規模修繕・賃貸ができなくなってしまいます(民法第251条(他の共有者の同意)、第252条(持分の過半数の同意))。さらに、共同相続人のうちの一人に相続が発生した場合には、相続関係者がさらに増えて相続関係が複雑になってしまい、より同意を得ることが難しくなります。

2 遺留分に配意した内容とすることです。

 遺留分というのは、一定の範囲の相続人に対して、被相続人の財産の一定割合について相続権を保障したもので、生活保障の意味合いがあります。この遺留分について、民法第1042条は、①直系尊属のみが相続人である場合は、遺産の3分の1、②それ以外の場合は、遺産の2分の1としています。なお、兄弟姉妹には、遺留分はありません。

 この遺留分を無視した内容の遺言書、例えば「全財産を長男に相続させる。」とする遺言書を作成するケースがよく見受けられます(弁護士、司法書士がサポートする遺言書にはよくみられます。)。このような場合には、他の相続人(例えば長女)は、自己の遺留分に相当する金銭の支払請求ができることになっています(民法第1046条)。現実の相続では、大半のケースで他の相続人からは遺留分の請求がなされます。そうすると、①確実に兄弟姉妹間の仲が悪化します、②長男が相続した財産の大半が不動産の場合には、この遺留分侵害額請求に対する金銭での支払ができない場合には、相続した不動産を売却して支払うことになってしまいます(相続税のほかに譲渡所得税を支払う必要が生じます。)。

 したがって、後日の争族争いを避けるためにも、個人的にはできるだけ遺留分に配意した内容の遺言書にすべきかと思います。

3 予備的遺言も検討することです。

 例えば、全財産を長男に相続させるという内容の遺言を作成した場合において、遺言者よりも先に長男が亡くなってしまったときには、長男に対する遺言内容が無効になってしまいます。その場合には、その部分については遺言がなかったことになりますので、結果的には、誰に対する遺贈もないということになりますので、相続人全員で法定相続分で分け合うことになります。仮に、遺言者の意思が、長男が先に死亡したときは、長男の長男(孫)に相続させるという意思(先祖代々の財産は直系卑属に引き継いでいってほしいという意思)であったのであれば、予備的遺言として、「長男が先に死亡した場合には、長男の長男に相続させる。」と書いておけば、遺言者の意思が叶うことになります。

4 遺言執行者を定めておくことです。

 遺言執行者を遺言で定めておくことにより、遺言内容の実現(執行)がスムーズにいきます(民法第1012条第1項)。例えば、預金の解約や不動産の名義変更も、遺言執行者が遺言書に基づいて単独で行うことができます。不動産の相続登記については、遺言執行者が定めていない場合は、相続人全員の申請(相続人全員の印鑑証明書が必要)となりますので、遺言内容に納得しない相続人がいるとスムーズに相続登記ができないこともあります。これに対して、遺言執行者が指定されている場合には、遺言執行者が単独で相続登記の申請ができますので、スムーズに相続登記ができるようになります。

 通常は、信頼できる子供(遺産を多くもらう者)を遺言執行者に指定しておくとよいでしょう。

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