基礎から学ぶ遺言相続講座(相続23)
遺留分を無視することはできますか?
また、遺留分侵害額請求に備える方法はありますか?
遺留分は、法律が定めた相続人の最低保障の権利ですので、遺言によっても排除することはできません。例えば、被相続人が、「全財産を妻に相続させる」との遺言をしたとしても、子(子は一人として)は4分の1(1/2×1/2=1/4)の遺留分を有していますので、子が妻に対して遺留分侵害額請求権を行使した場合には、妻は、子に対して遺産の4分の1の金銭を支払うしかありません。
このような遺留分侵害額請求権に備える方法あるいは侵害額請求の金額を減少させる方法としては、次のような方法があります。
①遺留分に配意した遺言書を作成する
そもそも遺留分を侵害しないように遺言書を作成するようにします。
②遺留分の放棄をしてもらう
遺留分権利者は、相続開始前に被相続人の住所地の家庭裁判所に対して、遺留分を放棄する旨申し立てて、家庭裁判所の許可を得ることが必要になります(民法第1049条)。
ただし、実際には、素直に放棄に応じるような人はいないかもしれませんので、何らかの生前贈与を行う見返りとして遺留分の放棄をしてもらうことになるかもしれません。
③遺言に付言事項を書く
遺言書に、具体的な遺産分けの理由(遺産を少ししか交付しないのは、事業を始めるに際して多額の生前贈与をしてあげたとか)を記載するなど付言事項を記載することにより、遺留分権利者に納得してもらうことがあります。しかしながら、その相続人が、遺産分けが少ない理由を書いた付言事項を読んで納得するかどうかは全く分かりません。
④生前贈与を行う
例えば、妻に老後の住まいとして自宅をどうしても確保してあげたいとか、事業を後継ぎである長男に引き継いでもらいたいといったように、特定の財産をどうしても特定の相続人に確保してあげたいという場合には、これは生前贈与をしてその者の所有財産としてしまうしかありません。
⑤遺留分侵害額請求に対する支払資金の手当てをしてあげる
兄弟仲が悪いなど、遺留分侵害額請求権の行使が見込まれる場合には、財産を相続する特定の相続人に対して、別途遺留分侵害額請求に対して支払う金銭を手当てしてあげることがあります。具体的には、被相続人が死亡したときに支払われる死亡保険金は、相続財産ではなくその相続人の固有財産となりますので、生命保険契約を締結し、死亡保険金の受取人をその相続人とすることで、遺留分侵害額請求の支払資金を手当てしてあげることができます。
実務を見てますと、「全財産を相続人のうちの一人に相続させる。」旨の遺言書を作成したケースでは、ほとんどのケースで他の相続人から遺留分侵害額請求がされています。そうしますと、やはり遺留分侵害請求の問題は避けて通れないでしょう。