以下に記載しました事例は、私が実際に携わった相続・相続税申告に関しての相談事例のほか、税理士会の無料相談などでの事例を参考にして、簡略化した事例を基に記載したものであり、実際の事例とは異なることをお断りします。
それぞれの事例については、簡単なコメント(あくまでも私見です。)を付けてあります。
(項目)
1 遺言
2 遺産分割
3 相続財産の調査
4 相続財産の評価
5 相続税の申告
6 相続対策・相続税対策(生前贈与など)
7 遺留分侵害額請求
8 相続財産の処分
(相談事例)
1 遺言
(事例1-1)全財産を2人に各2分の1ずつ相続させる旨の遺言書
被相続人は、司法書士の立会いの下で公正証書遺言書を作成したが、内容は「全財産を長女及び孫(養子)にそれぞれ2分の1ずつ相続させる。」というものであった。相続財産は、自宅、マンション2棟、駐車場2ヵ所、店舗とあった。その後、公正証書遺言書に基づいて長女及び孫が各2分の1ずつの共有とする相続登記を行った。
⇒ 相続争いを避けるために公正証書遺言書を作成したのは良かったのですが、遺言書の内容が「全財産を長女及び孫(養子)に各2分の1ずつ相続させる」といった内容であったため、自宅、マンション、駐車場、店舗の全ての不動産について、長女と孫が各2分の1ずつの共有持分を有する状態となってしまいました。このため、長女と孫とが全員で合意しないと売却処分をすることもできなくなってしまいました。今回のように、公証人の先生や司法書士などの専門家が遺言書作成に関与していても、遺言の内容はあくまでも遺言者の意思内容に沿って作成しますので、公証人の先生や司法書士などの専門家がこのように直した方が良いというような積極的なアドバイスはしません。したがって、自分だけで遺言書の文案を考えることによって、後々困るような遺言内容になることは絶対に避けなければなりません。できれば遺言書文案の作成段階から、専門家にアドバイスを求めるべきでしょう。
(事例1-2)全財産を相続させる遺言書
被相続人(母)は、先の亡父の相続に際して、相続人である長女、二女が相続争いをして家庭裁判所の調停・審判まで行ったことから、母自身の相続に際しては相続争いにならないようにするために、後継ぎである長女夫婦(長女の夫は養子としていた。)に「全財産を長女及び長女の夫に各2分の1ずつ相続させる」旨の自筆遺言証書を作成した。母に相続が発生した後、長女夫婦は遺言書の内容に基づいて相続手続を行ったため、二女は、長女及び長女の夫に対して遺留分侵害額請求を行った。長女夫婦は農家であり、所有する土地は大半が農地のほかは自宅及び敷地であり、現金は余り所持していなかった。
⇒ 相続争いを避けるために「全財産を〇〇に相続させる」旨の遺言書を作成される方はよくいらっしゃいますが、このような遺言書を作成した場合には、他の相続人からは遺留分侵害額請求がされることは必至です。そのような場合に、相続財産が不動産ばかりで現金預金が余りないときは、遺留分の支払いが困難になってしまいます。そうすると、遺留分額を支払うために、わざわざ相続した不動産の一部を売却するか、一旦相続した不動産の一部を他の相続人に譲渡するしかありませんが、このときは当然ですが不動産を譲渡したことになりますので、余分な所得税(譲渡所得税)がかかることなってしまいます。せっかく遺言書を遺言書を作成したのに、結局は相続争いになって、しかも余分に不動産の譲渡所得税を支払うことになってしまい、何のために遺言書を作成したのか分からなくなります。こうならないようにするには、遺言書の中では、少なくとも他の相続人に対しても遺留分に相当する不動産を相続させる旨書いておけばよかったと思います。
(事例1-3)遺言書が複数存在し判断能力が問題となった
被相続人(父)は、後継ぎである長男に対して、「全財産を相続させる」旨の公正証書遺言を作成した。その後、父の生前に遺言の存在を知った長女は、介護施設に入所していた父(認知症の疑いがあり)に「全財産を長女に相続させる」旨の自筆証書遺言を作成させた。長男と長女との間で、どちらの遺言書が有効かどうか紛争となり、長男は、家庭裁判所に遺言無効の調停を申し立てた。なお、調停に先立って、長男から、父が後の自筆証書遺言を作成した時点では認知症が悪化しており、判断能力がなかったとして、法定後見人の選任申立てがされていた。
⇒ 複数の遺言書が存在する場合には、内容が抵触する場合には後に作成された遺言書(公正証書遺言か自筆証書遺言かは問いません。)が有効となります。仮に「全財産を〇〇に相続させる」旨の遺言書が存在することを知ると、他の相続人は当然に納得できないでしょう。生前にその遺言書の存在を知ってしまうと、今度は推定被相続人に依頼して自分に有利な遺言書を作成させたりしますし、あるいは、死後に遺言書を知れば遺言書を作成した時点では認知症等にかかっており判断能力がなかったとして遺言書無効の調停・訴訟を提起したりします。こうなってしまうと、相続人同士が延々と訴訟をすることになってしまい、解決までに相当時間がかかりますし、弁護士費用等の費用もかかりますが、何よりも兄弟姉妹が絶縁状態になってしまいます。こういった事態を避けたければ、やはり最低でも遺留分に配慮した内容の遺言書を作成すべきかと考えます。
(事例1-4)子のいない夫婦の遺言書
子のいない夫婦の場合、夫も妻もそれぞれが「相手(夫又は妻)に全財産を相続させる。」旨の遺言書を作成すればよいのでしょうか?
⇒ 子がいない夫婦では、残された配偶者が生活に困らないように、「全財産を夫(妻)に相続させる。」旨の遺言書を作成することが多いでしょう。気になる点は、相手が自分よりも先に亡くなってしまったときには、もらう人がいなくなってしまうので、この遺言書自体は無効になってしまうことです。そのような場合に備えて、予備的遺言(妻が先に死亡したときは、自分の弟の子(甥・姪)に相続させるなど)をしておくかどうかです。もう一つは、夫が死亡して妻が全財産を相続したとして、その後に妻が死亡したときは、妻方の兄弟姉妹などに自分の財産が渡ってしまうことです。先祖代々の土地などを相続して所有していた場合は、自分の兄弟姉妹に渡したいという気持ちがある方もいるかもしれません。そのような場合は、妻にその旨の遺言書を書いてもらう方法もありますが確実とはいえません。他に信託という方法もあります。そのような点まで含めて遺言書の内容を書くかどうかは悩ましい問題です。
2 遺産分割
(事例2-1)一次相続での合意書の効力
被相続人Aは資産家で、相続人は妻B、長男C、二男Dの3人であった。遺産分割(一次相続)では分割内容を巡って相当紛糾したが、相続税の申告期限まで期間がなかったことから、妻Bが遺産の40%を相続し、残りをC、Dが40%、20%の割合で相続することとした。その際、C、Dの2者の間では、二次相続(妻の死亡時)では、一次相続・二次相続を通算して平等に遺産を分けるという「合意書」を作成した。二次相続が発生した際、Cは、「合意書」が存在するにもかかわらず、法定相続分により平等で分割すべきであると主張した。
⇒ 残念ながら、一次相続の段階でB、Cの2者で作成した「二次相続では一次・二次通算で平等にするように遺産分けを行う」という内容の「合意書」の効力は全く認められません。もちろんこの合意書に基づいて、相続人全員で一次・二次通算で平等となるような二次相続での遺産分割を合意できればよいでしょうが、一次相続で多額の遺産を相続した相続人が二次相続では平等に分割することを求められると、家庭裁判所では平等に分割することを決めるしかありません。やはり一次相続で分割内容に納得がいかなければ、絶対に遺産分割協議書には署名押印をしないということしか方法はありません。この事例では、税理士から受けた説明で、相続税の申告期限が迫っていて小規模宅地等の特例などが受けられないので多額の納税をしなければならなくなるという事情がありましたが、納得がいかなければ遺産分割協議書に署名押印しないことが大切です。したがって、一旦は未分割であるとして小規模宅地の特例等を適用しないで計算した相続税の申告書を提出して納税も済ませておき、後日、3年以内に遺産分割が成立したときに小規模宅地の特例を適用した修正申告書又は更正の請求書を提出して税額の還付を受けるほかありません。
(事例2-2)申告期限までに時間がない遺産分割協議書への署名押印
被相続人の遺産は、自宅の敷地、駐車場、工場の敷地の3つの土地があった。相続人は、長男、長女の2人であった。遺産分割案は、相続税申告書を作成していた税理士が長男の意向に基づいて作成していた。申告期限間際になって、遺産分割協議書案の提示を受けた長女は、税理士から期限までに提出しなければいけないと言われて、十分に検討する時間もないまま、とりあえず遺産分割協議書に署名押印した。長女が相続した土地は、長男が事業をしている工場の底地であり、簡単には処分もできない状況にある。長女は、今になって遺産分割の内容に納得がいかないと主張している。
⇒ 一旦遺産分割協議書に署名押印した以上、後日その内容に納得がいかないとしても、法律的には遺産分割のやり直しはできますが、税法上は新たな資産の譲渡又は贈与となってしまい、新たな税負担が生じてしまいます。この事案では、遺産分割のやり直し以外の方法として、駐車場と工場の敷地との「交換」を検討しましたが、残念ながら両者の価額差額からみて交換の要件を満たしませんでした。最終的には、工場の敷地を長男に譲渡して代金をもらうこととしましたが、長男の事業が余り芳しくないことから、代金は分割払いとなったほか、譲渡の諸経費や長女には譲渡所得税の負担が生じました。たとえ相続税の申告期限間際であっても、遺産分割協議書は納得しない限りは署名押印しないことが大切です。
(事例2-3)相続により共有とした不動産の売却
被相続人(父)の相続人は、母、長男、二男、長女の4人である。遺産は、自宅、店舗・土地、事務所(区分所有)・土地である(もともと当初の購入時から物件は父、母、長男、二男、長女の共有となっていた。)。遺産分割では、自宅は母が相続し、店舗・土地、事務所(区分所有)・土地は、売却して売却代金は子の3人で分けるということで、子の3人の共有とした。不動産業者から買取業者の紹介もあり、売買金額も決まったが、長女がもっと高く売却できるからと言って、結局、売買契約が流れてしまった。
⇒ 遺産分割の方法には、現物分割、換価分割、代償分割、共有分割といった方法がありますが、相続した不動産の売却を予定している場合は、遺産分割の方法を十分に検討する必要があります。一般的には、換価分割とすることが多いようですが、相続登記の名義人を相続人のうちの代表相続人一人とするか、それとも共有名義とするかは悩ましい問題です。今回の事例は、元々相続物件の店舗・土地、事務所(区分所有)・土地については、元々各相続人の共有状態にあったという特殊事情があったため、あえて共有名義としましたが、共有名義とすると、売却先や売却金額の決定に関して共有者全員の同意が必要になってしまうという問題があります。相続した不動産の売却を予定していても、できるだけ共有名義とすることは避けて、できれば換価分割(代表一人の単独名義)とする遺産分割としたいものです。
(事例2-4)前妻の子と後妻との遺産分割
被相続人Aの相続人は、前妻との子B、後妻Cの2人であった。被相続人Aは、病気で入院していたため遺言書の作成を考えていたが、作成しないまま死亡した。遺産分割では、前妻の子Bは、当初財産は何も要らないと言っていたが、一夜明けると、前妻の子Bの夫からの助言もあり法定相続分を主張した。相続財産は、後妻が住む自宅と預貯金のみである。
⇒ 前妻の子と後妻との間の遺産分割は非常に難しい問題です。なぜならば、法定相続分は、後妻と前妻の子ともに2分の1ずつとなりますが、財産が自宅と預貯金しかない場合、後妻は自宅を取得したいし、老後の資金として預貯金も欲しいでしょうが、他方で、前妻の子はできれば預貯金で取得したいというのが一般的ですので、2人の間で合意することが非常に難しいからです。被相続人が「全財産を後妻に相続させる」旨の遺言書を作成していれば、後妻は前妻の子に対して少なくとも遺留分相当額を支払う必要はありますが、遺言書がない場合に比べて支払う金額は半分(1/4)で済みます。病気で入院していた場合でも、公証人に出張してもらい病院で遺言書を作成することもできます。
(事例2-5)特別受益があるとき
被相続人Aの相続人は、長男B(派遣社員)、長女C(夫は自営業)、二男D(会社員)の3人である。相続財産としては、預貯金3,000万円と空き家となった自宅(2,100万円)があった。長男は、被相続人の生前に失業していた期間中(約10年間)にわたり被相続人から毎月10万円の生活費の援助を受けていた(合計1,200万円とします。)。長女Cや二男Dは、これは長男Bへの特別受益に該当するとして今回の遺産分割の上で考慮すべきであると主張している。長男Bも、特別受益であることを認めている。
⇒ 相続人の中に特別受益者がいる場合は、特別受益を考慮して遺産分割をすることになります。本件では、失業期間中の生活費の送金ですので、相続税法及び贈与税法上は非課税の贈与として相続時には相続財産に加算しなくてもよいかもしれませんが、遺産分割の上では、相続人全員の合意した特別受益額を考慮した上で遺産分割をすることになります。そうしますと、分割対象となる遺産額は、(3,000万円+2,100万円(遺産総額))+1,200万円(特別受益額)=6,300万円となりますので、法定相続分で分けると、最終的な取得する金額は、Bは2,100万円ー1,200万円=900万円、Cは2,100万円、Dは2,100万円となります。今回の事例では、長男が特別受益であることを認めており、かつ、預金通帳の履歴を確認すると毎月10万円の送金事績があったことから、特別受益を考慮して遺産分割を行いました。特別受益は期間の制限がないため、何十年も前の古い話でも主張できますが、通常は特別受益に関する明確な証拠がない限り、なかなか主張が認められることは少ないと思います。
(事例2-6)相続人の中に障害者がいるときの資産分割
父が亡くなり、相続人には母、長男(精神障害者1級)、長女の3人が相続人である。長女は、財産は要らないと言っているが、遺産分割はどうすればよいか?
⇒ 相続人の中に障害者の方がいるケースは、実際には結構多いようです。事例の場合は、精神障害者1級のため判断能力がないと想定されますので、任意後見人が選任されていない限り、本人に代わって契約などを行う法定後見人を選任した上でその者が代わりに遺産分割協議書に署名押印する必要があります。法定後見人の選任は、家庭裁判所に選任申立てをしますので、数か月間を要しますし、また、遺産分割協議では被後見人の法定相続分を確保する内容の遺産分割協議書でなければ家庭裁判所の許可が下りません。さらに、法定後見人は、一旦選任すると、止めたということはできませんし、被後見人が死亡するまで財産の管理行為を行いますので、専門家に対する報酬をずっと支払う必要がありますし、被後見人の財産は家族であっても自由に使えません。法定後見制度にはこのようなデメリットがありますが、残念ながら、今となってはどうしようもありません(このままでは遺産分割協議ができません。)。
3 相続財産の調査・範囲
(事例3-1)名義預金になるか?
被相続人Aの相続人は、配偶者B、長男C(別居)、二男D(別居)の3人である。相続開始後、自宅内を探したところ、C名義のゆうちょ銀行の通帳及び印鑑、D名義のゆうちょ銀行の通帳及び印鑑が見つかった。C、Dは、これらの預金が存在することを全く知らなかった。また、預金の取引通知は、Aの住所宛に送付されていた。取引内容を確認すると、C、Dが自分のために使用した事績は全くなかった。これらの預金は、名義預金となるのか?
⇒ C及びDは、ゆうちょ銀行の通帳・印鑑の存在を全く知らず、自身が所持もしていないこと(=被相続人が支配・管理していたこと)、取引通知の送付先が被相続人のAの住所地宛になっていること、C、Dが預金の入出金の取引をしたことがなく、出金額も自己のために使用したものとは認められないこと、といった事実からすると、これらの預金は被相続人Aの名義預金に該当しますので、相続財産に加算して申告する必要があります。
(事例3-2)配当期待権
被相続人は、〇年5月1日に死亡した。被相続人は、多数の株式を保有しており、3月末決算法人(6月28日に株主総会を開催予定)の株式に係る未払配当金は、相続財産になるか?
⇒ 株式の配当金は、基準日(例えば3月末決算法人では3月31日)現在の株主に対して、配当金を交付することになっており、この配当金は株主総会決議により金額が確定します。このような株式の配当金交付の基準日(3月31日)の翌日から配当金の効力発生の日(6月28日)までの間における配当金を受けることができる権利を「配当期待権」といい、これについても相続財産となります。なお、相続財産として計上すべき金額は、配当金の金額から所得税及び住民税の額(源泉徴収税額)を控除した金額となります。
(事例3-3)生命保険契約に関する権利
父が死亡し、父が保険契約者、被保険者が長男、死亡保険金受取人が父、となっている生命保険契約が見つかった。なお、保険料は一括払いで500万円を父が支払っていた。
⇒ この保険は、被保険者(長男)が死亡していないので、保険事故はまだ発生しておりません。ただし、この保険契約を例えば長男に変更した場合には、新保険契約者となる長男は、保険契約を解約することによって解約返戻金(=生命保険契約に係る権利)を取得することができます。したがって、これ(生命保険契約に関する権利)は、本来の相続財産として相続財産に計上する必要があります(本来の相続財産ですので、当然、遺産分割協議の対象にもなります。)。なお、この生命保険契約に関する権利の評価額は、死亡日現在での解約返戻金の金額となります。
4 相続財産の評価
(事例4-1)共有物件の評価
被相続人は不動産の共有持分を有していた。持分の評価額はどうなるか?
⇒ 一般市場取引や競売・公売などにおいては、不動産の共有持分の評価については、全体所有権の評価額×持分割合×持分減価によって評価しています。つまり、共有持分は所有権よりもいろいろな制約があり市場性に劣ることから、持分減価として1割から3割程度を減額するのが一般的です。しかし、相続税の評価では、共有持分であっても、特段の評価減はしませんので、全体所有権の評価額×持分割合により評価額を算出します。
(事例4-2)自宅(空き家)と貸家(現在空き家)の敷地の評価
⇒ 自宅敷地も貸家(空き家)敷地も、他人の権利による制約がありませんので、ともに自用地(路線価地域であれば路線価×面積×個別補正率の調整=評価額)として評価します。自宅と貸家が隣接していれば、一体評価することになりますので、場合によっては地積規模の大きな土地の評価減の適用ができます。
(事例4-3)自宅敷地内に畑がある
自宅敷地内には、一部畑が存在している。登記事項証明書で確認すると、宅地と畑の2筆になっていた。相続税の評価はどうなるか?
⇒ まずは「評価の単位」を考えます。畑が敷地内の家庭菜園といえる場合を除いては、基本的には、自宅敷地(地目・宅地)と畑(地目・畑)とが隣接していたとしても、土地の評価は、地目別に評価することになりますので、宅地と畑とは別々に評価することになります。これに対して、自宅敷地内に家庭菜園程度の畑がある場合は、地目の上で「宅地」1筆となっていれば、敷地内にある家庭菜園ということで、敷地全体を宅地として評価します。
(事例4-4)金地金の評価
相続財産の中に金地金500gが3枚あった。評価額はどうやって算定するのか?
⇒ 田中貴金属のホームページで、相続開始日の1g当りの買取価格を確認して、1g当り単価×重量の金額で計上します。
(事例4-5)外貨預金の評価
相続財産の中にドル建て預金(外貨預金)が存在していた。評価額はどうやって算定するのか?
⇒ 取引金融機関のホームページで、外貨の交換為替レートを確認して、対顧客直物電信買相場(TTB)により金額を計算します。
(事例4-6)家財道具一式
自宅内に家財道具があるが評価はどうすればよいか?
⇒ 家財道具一式として、例えば評価額5万円として一括して計上します。なお、電話加入権もこの金額の中に含まれていると考えますので、別に評価額を計上する必要はありません。
5 相続税の申告
(事例5-1)小規模宅地の特例を適用して税額0円となる場合の相続税申告書の提出の要否
被相続人の遺産総額は6,000万円で、相続人は3人のため基礎控除は4,800万円であった。小規模宅地の特例を適用して自宅敷地の評価をすると△1,500万円の評価額の減となるので、相続税額は0円となる。この場合でも、相続税の申告書を提出する必要があるか?
⇒ 小規模宅地の特例の適用前の課税遺産額が算出されるときは、最終的に小規模宅地の特例を適用して税額が0円となっても、相続税の申告書を提出する必要があります。
(事例5-2)相続時精算課税贈与を加算しても基礎控除以下のときの相続税申告書の提出の要否
長男は、被相続人から生前に自宅の贈与(評価額は1,500万円、相続時精算課税を適用して贈与税額は0円)を受けていた。被相続人が死亡したが、遺産は預貯金等で2,000万円である。相続人は長男、二男の2人である。相続時精算課税贈与を加算して相続税の計算をすると、遺産総額は3,500万円となり、基礎控除の4,200万円以下である。この場合でも、相続税の申告書の提出は必要か?
⇒ 相続時精算課税贈与を遺産総額に加算しても、なお基礎控除額以下である場合は、相続税の申告書を提出する必要はありません。ただし、相続時精算課税贈与で贈与税の納付をしていた場合は、相続税の申告書を提出することにより、贈与税額の還付を受けることができます。
(事例5-3)小規模宅地の特例が適用できる宅地が複数ある場合の選択
相続財産として、自宅、貸店舗がある。自宅には被相続人の配偶者が居住している。自宅について配偶者が取得すれば特定居住用宅地として特例の適用ができるし、また、賃貸中の貸店舗は長男が相続する予定であるが、長男が取得すれば貸付事業用宅地として特例が適用できる。どちらの土地を選択すればよいか?
⇒ 小規模宅地の特例が適用できる宅地が複数存在する場合は、基本的には㎡当りの単価を比較して適用後の評価額の減額の最も大きい宅地を選択することになります。ただし、配偶者には配偶者税額軽減を適用できますので、この規定による減額ができるのにあえて配偶者が取得する宅地について小規模宅地の特例の適用をすることは余りメリットがありません。したがって、このケースでは、一般的には長男が取得する貸店舗について小規模宅地の特例を適用して、配偶者には配偶者税額軽減を適用する方がより節税につながることが多いでしょう。
(事例5-4)相続人が障害者のとき
被相続人Aの相続人は、配偶者B、長男C(精神障害者2級、会社員)、二男D(会社員)の3人である。相続財産として、自宅のほか、貸店舗の底地を2筆所有しているので、自宅は配偶者Bが取得し、貸店舗の底地2筆は長男C、二男Dがそれぞれ取得することとなった。相続税の計算上、長男Cは障害者控除を適用すると税額が0円となったが、なお控除不足額が残っている。二男Dは、長男を扶養(生活費の送金)をしているわけではない。
⇒ 相続税法の障害者控除は、本人に控除額の適用した上でなお控除不足額が残っている場合は、扶養義務者の納付税額から控除することができることになっています。この場合、扶養義務者とは、民法にいう扶養義務者(民法第877条)をいいますので、直系血族、兄弟姉妹、特別の事情があるときの3親等内の親族をさします。しかも、扶養義務者、例えば兄弟姉妹に該当しさえすれば、両者の間で特段の生活費の送金等をしている必要もありません。したがって、障害者の長男の障害者控除不足額を二男の相続税額から控除することができます。
(事例5-5)相続放棄した相続人が死亡生命保険金を受け取った場合の申告
被相続人Aは、多額の借金があったことから、相続人の妻B、子Cはともに相続放棄をした。被相続人Aは生命保険契約に2口加入しており、死亡保険金の受取人はそれぞれB、Cとなっていた。死亡保険金受取額は、Bが4,000万円、Cが2,000万円であった。
⇒ 相続放棄をした相続人が受け取った死亡生命保険金は、「みなし相続財産」として相続税が課税されます。なお、相続放棄した者については、生命保険金の非課税の適用はありません。ただし、相続放棄があった場合であっても、基礎控除額の計算上は相続放棄がなかったものとして相続人のカウントを計算しますので、このケースでの基礎控除額は3,000万円+600万円×2人=4,200万円となります。結局、相続放棄した者が受け取った死亡生命保険金は、全額が課税対象になりますので、6,000万円(課税遺産額)ー4,200万円(基礎控除)=1,800万円が相続税の課税対象になります。したがって、相続税の申告書の提出が必要です。
6 相続対策・相続税対策(生前贈与等)
(事例6-1)婿養子と養子縁組したが夫婦関係が破綻
被相続人は、実子は長女と二女の2人のほか、家業の跡取りとなった長女の夫を養子としていた。相続では、長女の夫が店舗及び敷地を相続し、長女は自宅及び敷地など財産の大半を相続した。二女は現金預金、生命保険金を相続した。数年後、長女と夫の間の夫婦関係がこじれて離婚するかどうかでもめている。
⇒ 実子が女性しかいない場合、農業や事業を営んでいたりする家庭では、娘婿となった男性を養子にすることがよくあります。そうすると、相続人の数が養子の分だけ増えて相続税の節税につながります。しかも、相続が発生した際には、婿養子となった子にも財産の一部を相続させることもよくあります。しかし、最近は夫婦関係がこじれて熟年離婚するケースも増えてきており、一旦婿養子に相続させた財産は、離婚しても長女には戻ってきません。婿養子をするかどうか、相続の際に婿養子にも財産を相続させるかどうかは、相続税の節税や家の跡取りの問題も絡み難しい問題ですが、将来の娘の夫婦関係がどうなるかも不明ですので、非常に悩ましい問題です。
(事例6-2)配偶者贈与したが空き家となった自宅の処分
被相続人(父)は、生前自宅の敷地の持分の一部を配偶者に贈与していた。父生存中(父は介護施設に入所済み)に、母も高齢で脳梗塞を患い介護施設に入所した(認知症にはまだなっていないが疑わしい状況にある。)。自宅は、事実上空き家となっており、ゴミ屋敷化している。長男は、遺産分割で父の財産をすべて相続することしたいと考えている(将来的には、空き家の維持管理が大変なので売却したいとも考えている。)。
⇒ 高齢の推定被相続人の男性の方の中には、配偶者の将来の自宅の確保のために、配偶者贈与を相続税対策として利用する方もいるでしょう。しかし、高齢化が進んだ現代社会では、残された配偶者が介護のため介護施設に入所することとなり、自宅が空き家になってしまうこともよくあります。問題は、空き家となった自宅について処分するかどうかとなったときです。配偶者贈与を活用して自宅の一部を生前に贈与した場合にその後夫が死亡したときは、残された配偶者にまだ判断能力があって、しかも空き家となった自宅を売却することに同意してもらえれば売却することに関して問題は生じません。ただし、高齢者はだんだんと認知症が進行することもありますので、判断能力が亡くなる前に売却処分を進めないと、資産凍結にもなってしまいます。一方で、夫の相続で妻が自宅持分の残りを相続すれば、相続税の計算の上では、配偶者税額軽減や小規模宅地等の特例(居住用宅地)の適用ができますので、大幅な相続税の節税につながります。しかし、高齢の配偶者はいつ認知症が悪化するか、脳梗塞等で倒れるかは分かりません。そうなると、空き家となった自宅の処分をすることもできず、やはり資産凍結となってしまいます。今回の事例では、父の相続では、資産凍結のリスクや空き家となった自宅の維持管理を考えて、長男が遺産分割で自宅の一部持分を相続することを希望していましたが、母の持分があるため母が売却に同意しない可能性もあります。また、父が介護施設に入所する時点では、自宅には母が居住しており空き家となっていませんでしたので、長男が自宅を相続しても、空き家譲渡の特例は活用できません。非常に悩ましい問題ですが、相続税の節税や空き家譲渡の特例の適用ばかりではなく、将来の空き家となった自宅の処分等も念頭におくと、生前に配偶者贈与をするかどうかは判断が難しい問題です。
(事例6-3)将来の相続時に小規模宅地の特例を適用できるか?
推定被相続人Aの所有する土地には、A(元会社員、年金生活者)の自宅と長男B(Aとは生計は別)の自宅が建っている。この場合に、Aに相続があった場合に土地を長男が相続すると、小規模宅地の特例(居住用宅地)の適用はできるか?
⇒ 田舎の地主の家ではよくあるケースかと思います。しかしながら、残念ながら、生計が別の長男が、推定被相続人Aの土地を相続した場合には、生計を一にしない長男Bには、Aの自宅敷地部分はもちろんのこと、Bの自宅の敷地部分についても、小規模宅地の特例を適用することはできません。何とか適用できるようにするためには、Bは、Aが生前のうちにAの自宅に同居するか(あるいはBの自宅にAを同居させるか)しか方法がありません。Aは元会社員で年金生活者ですが、老齢厚生年金を受給していますので、十分に自分の生活費を賄うことができています。長男Bが、Aの生活費の援助をしているとして、生計同一であると主張することは難しいです。また、Bが、Aと生計一であることを装うために、住民票のみをA自宅に異動する方法をとることは、仮装隠ぺい行為とみなされてしまいますので、絶対にしてはいけません。特例の適用を受けるために同居するといっても、同居する家族の同意が得られないと思いますので、難しい問題です。
(事例6-4)住宅資金贈与の申告が期限後となった
親から住宅資金贈与を受けたが、翌年の確定申告の期限までに「贈与税の申告書(住宅資金贈与を受けた場合の非課税)」を提出することを失念し、期限後の申告となってしまった。税務署からは、期限後申告であるので住宅資金贈与の特例は使えないので、贈与税の計算は暦年贈与の計算となることから多額の贈与税とともに無申告加算税、延滞税を納付してもらうことになると言われた。
⇒ 残念ですが、住宅資金贈与などの特例は、期限内申告書の提出が要件となっています。したがって、相続時精算課税の選択届出書が事前に提出されていない限り、贈与税の計算は暦年贈与の計算となり、多額の納税が必要になります。昨年内に贈与があった事実がありますので、今から贈与がなかったとすることもできません。
(事例6-5)賃貸していた駐車場について所得税の確定申告をしていない場合の小規模宅地の特例の適用
被相続人は、8年前から不動産賃貸業として駐車場(アスファルト敷で、5台分、賃料は1台分1か月当り1万円)を所有していた。しかし、賃料収入については、所得税の確定申告をしていなかった。相続税の申告書を作成するに当たって、小規模宅地の特例(貸付事業用宅地)の適用はあるか?
⇒ 相続開始前3年以内に新規で貸付事業を開始した場合を除いて、貸付事業用の駐車場については、小規模宅地の特例(貸付事業用宅地)の適用をすることができます。ただし、相続開始前3年以上貸付事業を行っていたことの証明が必要であることから、今から課税権の時効にかかっていない過去5年分の「所得税の確定申告書」及び「収支内訳書」を提出します。相続税の申告書には、過去5年分の所得税の確定申告書及び収支内訳書、賃貸借契約書の写し、賃料の振込事績の分かる預金通帳の写しなどを添付して提出します。
7 遺留分侵害額請求
(事例7-1)全財産を長男に相続させる旨の遺言書
被相続人の相続人は、長男、長女の2人であった。被相続人は、長女とは折り合いが悪かったこともあり、生前「全財産を長男に相続させる」旨の公正証書遺言を作成していた。相続に際して、長女は長男に対して遺留分侵害額請求をしてきた。
⇒ 最近の相続では、ネットの情報もあり、ほとんどの相続人が相続に関する知識をある程度持っています。したがって、「全財産を相続させる」旨の遺言書がある場合には、他の相続人は遺留分侵害額請求ができることを当然のように知っています。遺留分は、法律で認められた権利ですので、遺言書があっても全ての財産を相続することはできません。どのみち支払うしかないのであれば、さっさと、遺留分相当額を支払ってしまった方が良いのではないでしょうか。ここで問題となるのは、遺留分額の算定の仕方です。土地の評価額に関しては、固定資産税評価額、相続税評価額、業者の査定価額、不動産鑑定士の評価額などがありますが、どれを基に遺留分額を算定するかについては、相続人間で合意すればよく自由です。ただし、実際の相続の事例では、この評価額が巡って争いとなることも多いようです。支払う側からすれば、安くなるように固定資産税評価額で算定したいところですが、もらう側からすれば、多くなるように時価(業者査定価額、相続税評価額÷0.8など)での算定を主張したいところです。うまく適当な妥協点が見い出せればよいのですが、なかなかむずかしいかもしれません。
(事例7-2)生前に自宅を相続時精算課税贈与
被相続人の相続人は、長男、長女の2人であった。長女は駆け落ち同然で家を出て行ったため、被相続人は、20年前に同居する長男に対して相続時精算課税により自宅建物及び土地を贈与するとともに、「全財産を長男に相続させる」旨の公正証書遺言を作成していた。後日相続が発生した際、長女は長男に対して遺留分侵害額請求を行ってきた。
⇒ 相続人の廃除がされていない限り、被相続人と折り合いが悪かった相続人も、遺言書がない限り、相続人として法定相続分を取得する権利があります。この事例のように「全財産を長男に相続させる」旨の遺言書が存在するであっても、長女は遺留分(1/4)を請求することができます。生前に被相続人が長男に対して相続時精算課税で自宅を贈与していた場合であっても、遺留分の算定上は相続人に対する贈与は相続開始前10年間にした贈与は加算することになっていますので、長男は生前贈与を受けた自宅を別枠でもらうことはできません(遺留分の計算上対象となる生前贈与は、相続時精算課税で非課税であることとは全く関係ありません。)。なお、遺言書に長男に対する生前贈与について持ち戻し免除をする旨を記載しておいても、自宅を別枠として確保することはできません。この事例では、生前贈与は20年前であったため、相続開始前10年間という期間制限を受けませんので、遺留分算定の基礎財産に加算されませんでした。ただし、当事者間で遺留分権者を害することを知ってした贈与は、年数制限はなく、何年前の贈与であっても遡って戻されることに注意してください。
8 相続財産の処分
(事例8-1)相続した配偶者が居住する自宅の処分
被相続人Aの相続人は、配偶者(妻)B、長男C、二男Dの3人である。相談者からは、できるだけ相続税の節税をしたいが、母は足腰が悪く一人暮らしであるため、近い将来介護施設に入所する予定である。今回の遺産分割では、最終的には自宅は配偶者Bが相続することとなった。
⇒ 相続税法の小規模宅地の特例(居住用宅地)は、配偶者が相続した場合は申告期限まで所有・保有するといった要件はありませんので、母が相続後に直ちに介護施設に入所したとしても、小規模宅地の適用要件は満たすことになります。したがって、相続税の節税を考えるならば、自宅に居住している母が相続することがよいでしょう。さらに、母が将来介護施設に入所した場合には、母の所有し居住していた期間がたとえ短期間であっても、居住用財産の譲渡の3,000万円控除の特例も適用できます。また、一人暮らしであった母が介護施設に入所後に死亡した場合は、空き家譲渡の特例を適用することもできます。
(事例8-2)相続した空き家を譲渡(代償分割)
被相続人Aの相続人は、長男B(派遣社員)、長女C(夫は自営業)、二男D(会社員)の3人である。相続財産としては、預貯金3,000万円と空き家となった自宅(2,100万円)があった。遺産分割では、預貯金は3等分して、空き家となった自宅は長女と二男が相続することとなった。二女の夫は自営業者であったため、実家の売却で多額の税金の発生や国民健康保険料の保険料がアップすることを心配している。
⇒ 空き家となった自宅の売却については、空き家譲渡特例を適用できます。ただし、問題は相続した不動産を売却することを前提とした遺産分割の方法であり、共有分割(長女及び二男名義の共有とした上で売却し、売却代金は持分に応じて分ける。)とするか、換価分割(売却代金から諸費用を控除した残りを2人で分ける。)とするか、代償分割(会社員の二男が実家を相続して長女には代償金を支払う。)とするか、非常に難しい問題でした。最終的には、長女の譲渡所得税や住民税の負担増、夫の扶養から外れたくない、国民健康保険料のアップを防ぎたいとの要望に沿って、代償分割の方法としました。代償分割の方法によると、実家を相続した二男が、不動産譲渡に係る所得税・住民税を負担することになりますが(なお、今回は空き家譲渡の特例を受けることができます。)、二男は会社員ですので健康保険料のアップはありません。長女は、相続で代償金を受け取るだけですので、相続税の負担はありますが、不動産譲渡に係る所得税・住民税の負担や国民健康保険料のアップはありません。不動産譲渡に係る売却代金から諸経費を引いて手残り金額を2等分することになりますが、その際、代償金の金額を決めるに当たって、二男が負担する所得税・住民税の負担を考慮して代償金の金額を決定すれば、2人ともに最終的な手残り金額をほぼ同じにすることができます。なお、国民健康保険料の算定や配偶者控除の対象者の判定では、特別控除適用「前」の合計所得金額を基に算定しますので、空き家譲渡特例「前」の所得金額で判断しますので、長女の要望に沿うためには、代償分割の方法しかなかったということです。
(事例8-3)売却先が決まらないまま建物を取壊し
推定被相続人は東京に一人暮らしをしていた。財産としては、自宅と賃貸物件(現在は空き家)がある。推定相続人は長女のみであり、長女は近くの介護施設に呼び寄せることにした。将来的には、空き家となった実家(自宅)と空き家の賃貸物件の処分を検討しているが、地元の不動産業者からは建物を取り壊して更地にしないと売却できないと言われ、とりあえず先行して空き家となった賃貸物件を取り壊した。いずれ実家の自宅も取り壊す予定である。なお、不動産業者による売却先は現在も見つかっていない。
⇒ 築年数の古い建物が存在するままでは、売却は困難であることは事実です。しかし、売却先が決まっていないのに慌てて不動産業者に言われるままに建物を取り壊してはいけません。建物の取壊しをすると、固定資産税では小規模宅地の特例が適用できず、固定資産税がアップしてしまいます。
譲渡所得の計算では、建物を取り壊すことが土地譲渡の条件となっている場合には、建物の取壊し費用や建物の除却損を譲渡費用として計上することができますが、先行して建物を取り壊して土地を更地にした状態にした場合には、その後に土地が売却できたとしても、建物の取壊し費用や建物の除却損失は譲渡費用として計上することができません。不動産業者に言われて慌てて建物を取り壊していけません。
また、空き家譲渡の特例は、売買契約で建物取壊し条件とするケースで適用できますので、売買契約後に建物を取壊しをする必要があります。不要となった実家の建物・土地については、売却先を探して契約金額や建物取壊し費用などの諸費用等が決定した後で、建物の取壊しを実行するべきです。
(事例8-4)相続した金地金の売却
相続財産の中に金地金500gが3枚あった。相続後に売却したが、所得税(譲渡所得)の計算はどうなるのか?
⇒ 金地金の売却については、所得税の計算では総合譲渡所得として計算します(土地などのように分離課税ではありません。)。したがって、他の所得と合算して累進税率での税率(5%~45%)で税金が計算されますので、思いもよぬ高額の税金の負担となることもあります。所得金額の計算は、売却価額ー取得費=所得金額となりますので、被相続人が購入した際の領収証書を探す必要があります。万一、領収証書が見つからない場合は、概算取得費といって売買価額の5%が取得費とみなされてしまいます。なお、田中貴金属に購入した場合は、個人情報の開示請求をすることで当時の購入価額が判明します。
(事例8-5)認知症対策で信託を利用したケース(委託者死亡のため空き家となった自宅を売却)
父の認知症対策として二女が父との間で家族信託契約を結んだ。その後認知症になった父が死亡したため、信託契約は終了となり、信託財産の帰属者となった二女は、空き家となった自宅を売却して手残り金額を他の相続人である長女、三女と分けようと考えている。空き家となった自宅を売却したときに、空き家譲渡の特例の3,000万円控除を適用することができるか?
⇒ 認知症対策として家族信託を利用する方も中にはいらっしゃいます。信託はできたばかりの制度であり、解釈や取扱いがまだまだ確立していない部分も多いので、後になって問題になってしまうこともあります。このケースも、残念ながら信託終了に伴う残余財産の帰属は、空き家譲渡における「相続又は遺贈による取得」に該当しないので、空き家譲渡の3,000万円控除の特例は適用できないという取扱いになっております(2022年12月20日付国税庁文書回答事例(東京国税局文書回答)参考)。