現金贈与が税務調査で否認されない方法は?

 相続税の節税のために、毎年のように暦年贈与の規定を使って非課税金額(110万円)の範囲内で現金贈与をすることはよくあります。

 民法の規定によると、贈与契約は、贈与者が自己の財産を無償で受贈者に与える旨の意思表示を行い、受贈者が贈与を受諾することによってその効力を生じるとされており、両当事者の意思表示の一致が必要とされています。仮に受贈者が未成年者の場合は、親権者が代わって贈与契約書に署名捺印をします。贈与契約自体は、書面ですることは必要ありません(口頭で贈与契約をすることも可能)。

 なお、受贈者が贈与を知らないという場合(親が勝手に子供名義の預金に100万円を入金しておくケース)は、贈与契約は成立していないことになりますので注意が必要です。

 ところで、税務調査の際に、現金の贈与があったことを否認されないようにするためには、どのようにすればよいでしょうか?この点については、税務調査の際に贈与契約の存在を立証することができればよいということですが、贈与契約があったということを立証するためには、次のような証拠をそろえておくとよいでしょう。

①贈与契約書を作成します(なお、公正証書で作成するとか、公証人役場で確定日付を押してもらうと、贈与契約の存在が確実なものとなります。不動産の贈与の場合は印紙200円を貼付します。現金贈与の場合は印紙は不要です。)。

②現金を贈与したというお金の流れが分かるように、贈与者の預金口座から受贈者の預金口座に振込する方法により行います。

③振込のあった受贈者名義の預金通帳及び印鑑は、受贈者が管理します。

④受贈者は、非課税金額(基礎控除110万円)以上の贈与であれば、贈与税の申告書を税務署に提出します。

⑤受贈者はもらったお金を個人的な支出に使用していることが分かるようにしておきます。

 以上のような証拠があれば、現金贈与の事実が税務調査で否認されることは少ないといえます(贈与税の申告書を提出しているだけでは、贈与契約があったと証明することはできません。)。

 なお、これらの証拠が不十分であったため、贈与の事実が立証できずに、受贈者名義の預金が名義預金と認定されてしまうと、この名義預金は相続財産として取り込まれることになりますので、相続税を余分に支払いことになります。

連年贈与と認定されないようにするにはどうすればよいでしょうか?

 連年贈与とは、例えば、父親が子に対して今後10年間毎年100万円ずつを贈与すると言ったときには、①毎年贈与税の非課税規定が適用になり、贈与税の課税はされないと考えるのか、それとも、②毎年100万円ずつ贈与を受けるという権利(約100万円×10年間=1,000万円)を無償で譲り受けたと考えるのか、が問題となります。

 ところで、税務調査において、連年贈与と認定されないようにするためには、例えば、贈与をする月日を毎年変えるとか、あるいは、贈与する金額を毎年変える、といったことをしておくと、連年贈与と認定されることはないでしょう。

認知症になっている母から贈与を受けることは有効でしょうか?

 相続対策として、暦年贈与の活用を考えている場合に、もし母親が認知症になってしまったときに、贈与契約はどうしたらよいでしょうか?

 母親が認知症になってしまった場合には、母親は判断能力(事理弁識能力)を有しないと判断されることもあります。 そうなると、母親は子供に対して財産を贈与するという意思表示をすることができないことになりますので、例えば、相続対策として、母親から子供に贈与するといった契約はできないことになります。

 この点、不動産の贈与であれば、登記手続を行う司法書士が本人確認と意思確認を行いますので、そもそも移転登記手続をすることができないでしょう。これに対して、現金贈与となると第三者が介入しないので、贈与契約書の形式を整えることができてしまいます。

 しかし、後になって訴訟等で贈与契約の有効性を争われた場合には、裁判で母親に判断能力がないと判断されると、事後に贈与契約は無効と判断されることになります。

 このような場合に、判断能力が不十分な人を保護・支援する制度として成年後見制度があります。そして、成年後見制度を活用することにより、成年後見人が本人を代理して財産の管理や契約などを行うことになります。

 ただし、成年後見人制度は本人の財産を守るために選任されていますので、成年後見人が贈与により本人の財産を減らすような行為は認められません。そうしますと、母親から子供への贈与をすることはできないということになります。

 それでは認知症に罹る前の対策(認知症に罹っても贈与することができるようにする方法)としては、信託(家族信託)を活用する方法があります。

 この信託(家族信託)を活用すれば、母親が認知症に罹った後でも、事前に定めた代理人(受託者)が推定相続人(受益者)に対して信託契約で定めたとおり贈与を継続して行うことができます(ただし、単に子供に毎年100万円贈与すると定めると連年贈与に該当することもありますので、連年贈与に該当しないように注意する必要があります。)。

孫と養子縁組をして相続税を節税することはどうでしょうか?

 祖父が孫を養子とすると、相続税法上の法定相続人の数が増えますので、基礎控除の金額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)が増加し、超過累進税率が緩和されることから、孫養子をしなかった場合に比べて相続税を大幅に節税することができます。ただし、民法上は、養子は何人でも構わないことになっていますが、相続税法上は、養子の数に制限が設けられており、被相続人に実子がいるときは孫養子は1人まで、また、被相続人に実子がいない場合は孫養子は2人まで認められることになっています。

 このほかに、孫養子が死亡保険金や退職手当金を受け取る場合には、500万円×法定相続人の人数分の非課税規定がありますので、こちらの面でも、やはり相続税をかなり減らすことが可能となります。

 ただし、孫養子とをした場合のデメリットとしては、次のようなケースがあります。 例えば、被相続人(父)の相続人は、妻、長男、次男、長女、長男の子A、B(2人とも孫養子に該当)、次男の子C(孫養子に該当)というケースにおいて、民法上は養子の数に制限はありませんから、孫養子A、B、Cはいずれも財産を相続することとなりますので、最終的には、長男の家族(長男、A、B)が受け取る遺産額と、次男の家族(次男、C)が受け取る遺産額にはトータルで見ると差が生じることになりますし、次女の相続分は養子縁組前の6分の1から12分の1に減少してしまいます。この結果を、次男家族や長女が良しとしないときは、遺産分割を巡って争いとなることもあります。

 このように、相続税の節税だけを考えて孫養子制度を活用すると、一部の相続人の理解が得られずに遺産分割協議が紛糾することとなり、争族問題にもなりかねませんので、慎重に判断することが必要です。

死亡直前に借入金で賃貸マンションを建設することは相続税の節税になりますか?

 相続対策として、生前に更地に賃貸マンションを借入金で建設することが未だに流行っています。

 なぜ相続税の節税になるかといいますと、土地は、路線価で評価(時価の8割程度)し、さらに貸家建付地として評価(借地権割合×借家権割合を控除する)すること、また、建物は、固定資産税評価額で評価(建築費の6~7割程度)し、さらに貸家として評価(借家権価格を控除する)すること、その上で、借入金はそのままの金額を相続財産額から控除するから、結果的に相続税評価額が減少するからです。さらに、マンションの敷地については、貸付事業用宅地として小規模宅地等の特例の適用を受けることができますので、200㎡までの範囲で50%の評価額の減額ができます。

 このように更地にマンションを建設することは、土地を有効活用することや相続税の節約に役立つことから、非常に有効な手法といえます。ただし、平成30年の改正(平成30年4月1日以後に適用)により、小規模宅地等の特例については見直しがあり、貸付事業用宅地の範囲から、相続開始前3年以内に貸付の事業の用に供された宅地等(ただし、相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている者が行うケースは除きます。)を除外することになっておりますので、相続税の節税のために、死亡する直前に賃貸マンションを建設しても、小規模宅地等の特例の適用を受けることができませんので、注意が必要です。

 ところで、上記に述べたことは、あくまでも相続税の節税という観点からのみ見た話であって、それよりももっと大切なことは、事業主として、この先何十年もマンション賃貸経営を営んでいくということですので、マンション賃貸経営の収支が将来にわたってずっと黒字になるようにしていくようにしていくことです。そうしますと、賃貸経営として黒字になるかどうかという観点から考えると、人口減少社会にあってしかも新築マンションも続々と供給されていく中で、そもそも立地場所として入居者の需要が見込まれる地域かどうか、将来にわたって入居者が確保できるかどうか、今後の修繕費や建物取壊し費用を考えても収支がプラスになるかどうか、といった点を踏まえて、賃貸経営の事業計画の中身をよく検討しておくことが大切です。

賃貸マンションを子供に贈与する場合の注意点は?

 時価1,000万円(相続税評価額700万円)の賃貸マンション(敷金100万円を預かっている)を子供に贈与する場合、注意しなければならない点があります。

 それは、負担付贈与に該当すると、①贈与者は負担額(100万円)で贈与財産(1,000万円)を譲渡したものとみなされますので、譲渡所得(900万円)に対して所得税を負担することになります。他方で、②受贈者は、受贈者が負担する債務の額(100万円)が、贈与を受ける財産の時価(1,000万円)に比べて著しい価額である場合には、贈与を受ける財産の時価から負担する債務の額を控除した金額(900万円)に対して贈与税が課税されることになります(贈与税の計算が相続税評価額で計算するのではなく、時価での計算となってしまいます。)。

 このような結果となることを回避するためには、負担付の贈与と同時に、現金100万円を併せて贈与することにより、贈与に伴う実質的な負担はないものとすることにより、単なる財産の贈与と同様に取り扱うこととなりますので、贈与者が譲渡所得を計算する必要はなくなりますし、また、贈与税の計算に当たっては、贈与財産を相続税評価額で評価することができます。

小規模宅地等の特例対象の土地が複数ある場合、どの土地を選択したらよいでしょうか?

 小規模宅地等の適用を受ける土地が複数存在する場合には、基本的には、それぞれの土地について限度面積まで特例を適用した場合の1㎡当たりの評価減の金額を比較して、最も1㎡当たりの評価減の金額が高い土地を選択して特例を適用することが、相続税の総額を少なくすることができます。

 ただし、配偶者と子が、それぞれ適用対象となる土地を取得したとした場合(例えば、配偶者は自宅の敷地を取得し、子は賃貸マンションの敷地を取得したケース)には、配偶者については、配偶者の税額軽減の規定により相続税額が軽減されますのでこの土地を選択するのではなく、子の取得した土地(賃貸マンションの敷地)について特例を適用した方が、結果的には相続税額の節税を図ることができることになりますので、一概に1㎡当たりの単価によって選択することがよいとはいえません。

 したがって、特例が適用可能な複数の土地について、それぞれの土地を選択適用した場合の相続税額を計算して、どの選択が一番相続税が少なくなるかをシュミレーションすべきことになります。

配偶者居住権を活用した節税は?

 配偶者居住権は、本来は、相続人として配偶者と子供(非嫡出子)がいるケースで、相続財産として自宅(2,000万円)と預貯金(2,000万円)しかない場合において、子供(非嫡出子を想定)が法定相続分(2分の1)を主張すると、配偶者は、仮に自宅を相続するとすると、預貯金は一切相続できなくなることから、老後の生活資金が不足する事態になることを回避するために、この配偶者居住権(評価額800万円と仮定)を利用することによって、自宅に住み続けることができて、しかも預貯金(1,200万円)を相続できるというものでした(後妻である配偶者と先妻の子供との相続においても、同様に活用することが想定されていました。)。

 ところが、本来的な活用方法としては、配偶者居住権はほとんど活用されておらず(家族仲が良い親子間では円満に法定相続分にとらわれずに遺産分割をすれば足りるし、非嫡出子との間では「遺贈」により使うことはあるかもしれない。)、むしろ節税対策としての活用が注目されています。

 つまり、配偶者居住権を相続した配偶者が死亡した場合には、配偶者居住権が消滅することから、相続人である子供は、完全な所有権を取得することができますが、これは相続又は遺贈による取得ではないので、相続税が課税されないままに、二次相続で取得することができるというものです。

 確かに、配偶者居住権を取得した配偶者が死亡すれば、その相続人である子供は、相続又は遺贈によらずして自宅の完全所有権を取得できて、二次相続において相続税が課税されないというメリットはありますが、配偶者居住権はそもそも平均余命等を考慮して評価されており、配偶者が一次相続後短期間のうちに死亡すれば、消滅する配偶者居住権の価額も大きくて、相続税の節税のメリットが大きくなりますが、反対に、配偶者が長生きすれば配偶者居住権の評価額も小さくなり、結果として相続税が課税されないという金額も小さくなります。このように、配偶者が短命になるか長生きするかどうかは不確定であることから、果たして相続税節税のメリットが生ずるかは非常に不確定なものといえます。

 また、それよりももっと大きなデメリットは、配偶者居住権はそもそも売却することができませんので、例えば、配偶者が、急遽介護施設に入居することとなり、配偶者居住権を放棄することにより消滅させて(あるいは子供との間で合意解除により消滅させて)、その後に自宅を売却して介護施設の入居資金に充てるといった場合には、その際に、子供が配偶者に対して対価を支払わなかったとき又は著しく低い対価しか支払わなかったときには、子供に対して配偶者居住権の評価額について贈与税が課税されてしまうことになる点です(相続税基本通達9-13の2)。反対に、子供が、配偶者に対して対価を支払えば、配偶者は所得税(総合課税の譲渡所得)が課税されることになります(この場合所得費の計算は、所得税法第60条第3項によります。)。

 先々のことは、分からないので、相続税の節税ということで安易に配偶者居住権による節税策を実行することは慎重に検討する必要があります。

相続した財産を共有名義とした場合のメリット・デメリットは?

 相続により土地や建物を共有名義とすることは、一般的に避けた方がよいと言われています。 しかし、相続人間で争いがありやむを得ず当面の共有名義とするケースや、相続する財産が自宅しかなく相続人が子供2人で共有名義とするケースなど、共有名義とするケースもあります。

 共有とした場合のデメリットとし ては、①売却や賃貸をしようにも全員の同意や過半数の同意が必要になるが、共有者間で意見がまとまらずに何もできなくなってしまうこと、②共有者に相続が起きた場合には、共有者の数がさらに増えてしまうことになり、共有者の相続人の中には遠方に所在している者がいるとか又は所在不明である者がいるとかでそもそも話し合うこともできないようなケースもあること、にもなりかねない事態になってしまう可能性が高いことです。 一方で、共有名義とする方がメリットとなるケースもあります。

 例えば、相続人が2人の場合で相続した財産が自宅しかないケースでは、持分を2分の1ずつの共有名義とすることで、空き家譲渡の特例を受けるようなケースでは、各相続人がそれぞれ譲渡所得から特別控除(3,000万円)の適用を受けることができますので、トータルでは譲渡所得税をかなり節税することができます。あるいは、相続税の納税資金を捻出するために、相続した自宅や土地を相続税の申告期限内に売却することを予定しているようなケースでは、各相続人がともに譲渡所得の計算上相続税額の所得費加算の特例を受けることができますので、共有名義とすることも全く問題がありません。このように、相続した財産を相続後直ちに処分する方針が決まっているようなケースでは、共有名義とすることは非常に有効な節税の手法となります。 また、相続人が2人の場合で相続財産が賃貸物件一つしかないケースでは、賃貸物件を売却するよりも将来にわたって各相続人がそれぞれ法定相続分に応じて賃料を取得したいという要望がある場合には、共有名義とすることも選択肢の一つと考えられます。

 このほかに、地積規模の大きな宅地の適用が可能な土地(三大都市圏内であれば500㎡以上)について、例えば600㎡の土地を相続人AとBで分筆して相続する(Aは300㎡、Bは300㎡)した場合には、A、Bともに地積規模の大きな宅地の適用を受けることができませんが、AB持分2分の1ずつの共有名義とした場合には、上記の500㎡の判定は共有持分割合で按分する前の共有地全体の地積により判定することになりますので、地積規模の大きな宅地の適用を受けることができて、相続税評価額を大幅に減らすことが可能となります(ただし、この特例の適用を受けた後にその土地を譲渡するようなケースでは、将来的には税制改正で適用が受けられなくなることや税務調査で適用が否認される可能性もあります。)。

 いずれにしても、以上のメリット・デメリットを踏まえて、その土地の将来の処分・管理に問題が生じないかなどを検討して、共有名義とするか否か判断することになります。

生命保険は相続税の節税対策として有効でしょうか?

 生命保険金は、その保険契約に定められた指定受取人が、保険契約から生ずる固有の権利として生命保険金請求権を取得するものとなりますので、受取人固有の財産となります。つまり、民法上は、生命保険金は被相続人の相続財産ではありませんので、遺産分割協議の対象にもなりません。したがって、相続人のうちの特定の相続人に対して、一定の財産(現金)を承継させたいといった場合には、生命保険を活用することにより、遺産分割などの相続手続によらずに、特定の者に生命保険金相当額の財産を確実に承継させることができます。

 しかし、相続税法上は、課税の公平の観点から、本来は相続財産ではない生命保険金を相続財産とみなして(「みなし相続財産」といいます。)、相続税を課税することとしております。とはいっても、被相続人の死亡に起因して相続人が受け取る生命保険金については、遺族の生活保障のために支払われるという面もありますので、相続税法上は、一定額の非課税枠(生命保険金の非課税枠=500万円×法定相続人の数)があります。ただし、非課税枠を使える死亡保険金の受取人は、相続人に限られていますので、相続放棄をした者、相続権を失った者、もともと相続人ではない孫などが受取人になっている場合には、その受取人については非課税枠を使うことはできませんので、注意が必要です。

 この生命保険金の非課税枠を活用することで、次のようなことが考えられます。

 一つ目は、相続税の節税策としての活用(財産の組換え)です。

 例えば、現金1,000万円を持っていると、1,000万円がそのまま相続税の課税の対象になりますが、1,000万円を支払って生命保険に加入し、その後に被相続人の死亡に伴い1,000万円の死亡保険金を受け取る場合には、相続税の計算上、生命保険金の非課税枠分(例えば、法定相続人の数が2人で1,000万円)が控除されますので、相続税の課税がされない(相続税額は0)ということになります。

 二つ目は、相続税の納税資金の確保対策としての活用です。

 相続税の納付は、現金での一括納付が原則となっております。しかし、相続財産の大半が不動産であるとか、財産が自宅くらいしかないなどで現金は余りないといった場合には、生命保険契約に加入することにより、受取人となる相続人に多額の現金を用意することができます。

 三つ目は、遺留分侵害額請求・代償分割への対策(争族争いの防止)としての活用です。  

 例えば、相続財産は自宅(あるいは賃貸マンション)しかないといった場合において、被相続人が、相続人の中の特定の相続人に対して、その自宅(あるいは賃貸マンション)を遺言書で相続させるとしたときには、他の相続人の遺留分を侵害することになりますので、他の相続人から遺留分侵害額の請求があった場合には、場合によっては、その自宅(あるいは賃貸マンション)を売却して平等に配分するしかなくなるといったこともあり得ます。しかし、死亡保険金の受取人を自宅(あるいは賃貸マンション)を相続させる特定の相続人とすれば、死亡保険金はその特定の相続人の固有の財産となり、遺産分割の対象にもなりませんので、その特定の相続人は、受け取った死亡保険金を遺留分侵害額請求の支払に充てることができます。このようにすれば、結果的に、特定の相続人は 、自宅(あるいは賃貸マンション)を取得することができて、しかも遺留分侵害額請求に対する支払額の資金手当ても用意できたということになります。

 このような活用の仕方は、相続財産が自宅しかない場合において、遺産分割協議の中で自宅を相続する相続人が、他の相続人に対して代償金を支払う資金を生命保険金で用意するというときにも活用することができます。 

孫を生命保険の受取人とした場合に問題は生じませんか?

 生命保険の非課税枠を利用した相続税対策がありますが、推定相続人に該当しない孫を受取人とする生命保険契約(被保険者及び保険料負担者は祖父とします。)については、次のような問題点が発生しますので、注意が必要です。

①孫が受け取った死亡保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象となりますが、孫は相続人ではないことから死亡保険金の非課税規定の適用はありません。

②孫は相続によって財産(死亡保険金)を取得したことになり、また、孫は被相続人の一親等の血族以外に当たりますので、孫の相続税額については2割加算がされることになりますので、この分税金の負担が大きくなります。

③孫が死亡保険金を取得すると、子は遺贈により財産を取得したことになりますので、相続開始前3年以内に被相続人である祖父から贈与により取得した財産がある場合には、この贈与された財産は生前贈与加算の対象になりますので、相続税の負担がかかります。

 これらによって孫が相続により取得した財産が相続財産に加算されることになると、孫に相続税がかかるだけではなく、他の共同相続人の相続税の負担も重くなってしまいます。 孫を生命保険の受取人とする場合には、これらの不利益をよく検討して行うことが必要です。

生命保険料相当額を子供に贈与する節税策は?

 生命保険は、被保険者を被相続人とするものであっても、保険契約者と保険料負担者が誰であるかのよって、死亡保険金に対する課税が異なります。この場合、保険契約者以外の者が保険料を負担している場合には、実質の保険料負担者が誰であるかによって判断します。

 例えば、保険契約者は子供、被保険者は父、保険料負担者は子供といったケースでは、死亡保険金の受取人は、保険契約者である子供となりますので、死亡保険金に対する課税は、相続税ではなく、所得税(一時所得)となります。

 ところで、このような契約関係の生命保険について、子供に保険料の支払能力がないといった場合には、父が毎年子供に保険料相当額の現金を贈与し、子供は贈与された現金で保険料を支払うということがあります。

 本来、相続税法では、保険契約に基づく保険料の支払の都度に贈与税を課税するという取扱い(入口課税)ではなく、保険事故発生時を課税時期として、保険金受取人と保険料負担者との関係により、相続税、贈与税、所得税を課税するという取扱い(出口課税)となっています。

 しかし、国税庁は、一定の要件の下に、保険料相当額の贈与という考え方を容認し、未成年者又は無収入者を保険料負担者として取り扱うことにしました(昭和58年9月「生命保険料の負担者の判定について」(事務連絡)参照)。

 これによると、先のケース (保険契約者は子供、被保険者は父、保険料負担者は子供 )では、保険料の支払者は、子供ということになりますので、子供が受け取った死亡保険金は所得税が課税されることになりますが、①父は毎年の現金贈与で相続財産を減少させることができて、②子供はもらった現金を保険料の支払に充てるので無駄遣いする(もらった現金を消費してしまう)といったこともありませんし、しかも③子供は保険料の支払の負担もなく死亡保険金を受け取ることができて相続税の納税資金を手当てすることができますので、非常にメリット(節税対策と納税資金対策になる)があります。

 なお、所得税の一時所得の計算は、(受取保険料ー払込保険料ー50万円(特別控除))×1/2で計算しますので、受取保険料と払込保険料との差額が50万円を超えなけれな、所得税は課税されません。

 ただし、保険料の負担者が子供ではなく、父と認定される可能性もあります(その場合は死亡保険金は相続税が課税されます。)ので、保険料の贈与があったことの事実を証明するために、①毎年の贈与契約書、②過去の贈与税申告書、③所得税の確定申告書における生命保険料控除の状況、④その他贈与の事実を証明できるものなどを用意しておく必要があります。

贈与税の配偶者控除は相続税の節税対策として有効でしょうか?

 婚姻期間が20年以上あるとき、配偶者への自宅の贈与については、2,000万円プラス基礎控除110万円の合計2,110万円までの範囲内であれば、贈与税が非課税となっています。しかも、改正民法(第903条)では、婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産の遺贈又は贈与については、これを特別受益に該当しないものと推定(持ち戻し免除を行ったと推定)があったものとして取り扱われていますので、配偶者はより多くの財産を相続することができます。

 一見すると、この贈与税の配偶者控除の規定を使うと、この分相続財産を減らすことができますので、将来の相続税が節税できるようにみえます。

 しかし、例えば、自宅の贈与を受けた妻が、夫よりも先に死亡した場合は、夫は自宅について相続税を支払うことになることがあります。このように、死亡の順序が異なると、予定された節税の効果はありません。 また、贈与税は非課税であっても、贈与による所有権移転登記をするために必要な費用として、登録免許税、司法書士手数料が必要になりますが、この費用が思いのほか多額になることもありうるということを注意する必要があります。登録免許税は、贈与を原因とするときは、固定資産税評価額の1,000分の20かかりますので、例えば、評価額2,000万円の物件であれば、登録免許税として40万円かかります(これに対して、相続を原因とする所有権移転登記をする場合の登録免許税は、固定資産税評価額の1,000分の4ですみます。)。

 さらに、相続の場合は小規模宅地等の特例の適用を受けられますが、夫婦間の自宅の贈与の場合は小規模宅地等の特定の適用を受けることができません。

 したがって、わざわざ費用をかけて夫婦間の贈与により自宅の所有権を移転しなくても、相続によって所有権を移転すれば、配偶者は相続税の配偶者の税額軽減を使うことができるますし、また、配偶者が相続した土地について小規模宅地等の特例の適用を受けることができますので、これらの特例の適用の結果相続税がかからないケースもありますので、そのようなケースではあえて夫婦間で自宅の贈与をして贈与税の配偶者控除を適用する必要はないかもしれません。

 これら点も考慮して、最終的に贈与税の配偶者控除を利用するかどうか検討する必要があります。

教育資金贈与一括贈与、結婚子育て資金一括贈与、住宅取得資金等贈与は相続税節税策として有効でしょうか?

 上記の3つの一括贈与は、いずれも相続税の節税対策としては、非常に有効なものといえます。

 すなわち、①祖父母から孫へと多額の資金を移転することができるので、一世代飛ばして財産を移転することができます。

②いずれの一括贈与も、一括贈与の非課税とは別に基礎控除(110万円まで非課税)を併せて適用できます。

 ただし、注意しなければならないのは、一つ目として、贈与者(例えば、贈与をした祖父母)が贈与直後に死亡した場合、住宅資金贈与を除いて、他の2つの一括贈与(教育資金贈与一括贈与及び結婚子育て資金一括贈与)では、使い残し(管理残額)があれば相続税の課税対象になるという点です(住宅資金贈与については、贈与直後に死亡しても使い残しについては相続税が課税されないことになっています。)。

 ※教育資金贈与一括贈与については、ここ数年かなり改正がされており、次のとおり課税が強化されていますので、注意が必要であります。

  つまり、平成31年4月1日以後に取得する教育資金贈与一括贈与に関しては、贈与者の相続開始前3年以内に行われた贈与について、管理残額が相続財産に加算される取扱いとなったということです。

  ①平成31年3月31日までの拠出 

   ・・・贈与者が死亡しても使い残しに対しては相続税は課税されません。

  ②平成31年4月1日から令和3年3月31日までの拠出

   ・・・贈与者が死亡した場合、使い残しがあれば相続税が課税されます(例外有)。

  ③令和3年4月1日以降の拠出

   ・・・贈与者が死亡した場合、使い残しがあれば相続税が課税されます(例外有)。

      さらに、受贈者が孫等であれば相続税額に2割加算があります。

 ※結婚子育て資金の一括贈与については、次のとおり改正されています。

  ①平成31年3月31日までの拠出

   ・・・贈与者が死亡した場合、使い残しがあれば相続税が課税されます。

  ②平成31年4月1日以降の拠出

   ・・・贈与者が死亡した場合、使い残しがあれば相続税が課税されます。

      さらに、受贈者が孫等であれな相続税額に2割加算がされます。

 また、二つ目として、教育資金の一括贈与では、受贈者が30歳に達するなどにより教育資金口座に係る資金管理契約が終了した場合には、非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額について贈与税が課税されるということです。同じく、結婚・子育て資金の一括贈与では、受贈者が50歳に達するなどにより結婚・子育て資金口座に係る資金管理契約が終了した場合には、非課税拠出額から結婚・子育て支出金を控除した残額について贈与税が課税されるということです。

 このように、使い残しがあると相続税や贈与税が課税されるケースがありますので、祖父母の方々が孫に贈与する場合には、ご自身の今後の生活費も考慮しながら、使い残しが生じないようにすることも考慮して、使い切れるだけの額を贈与することが必要になります。

法改正が見込まれるので亡くなる直前の駆け込み贈与をしてはダメでしょうか?

 暦年贈与(1年間に110万円までは贈与税は非課税)は、相続対策として有効と考えられています。しかし、相続財産を取得した相続人が子である場合には、相続開始前3年以内の贈与については相続財産に持戻し(加算)されますので、この3年以内の贈与に係る分については相続対策にはなりません。

 しかし、この持戻しの対象となる相続開始前3年以内贈与は、相続時に財産を取得する相続人及び遺贈を受ける受遺者が対象となりますので、これ以外の者(例えば、孫、子の配偶者(嫁))に対する贈与は加算の対象にならないことになります。

 したがって、相続税対策として暦年贈与を活用する場合は、子だけでなく、この配偶者や孫なども対象とすることで、110万円の非課税枠をたくさん使うことができますので、トータルで見ると大きな節税になりますし、孫などに贈与することで相続税の課税を一世代飛ばすことができて、しかも孫は法定相続人には該当しないので3年以内贈与の加算の対象にもならないなど、相続税の節税対策としては非常に有効な手段となります。

相続税対策として家族信託は有効でしょうか?

 認知症になったときの対策として、家族信託が有効だと言われている。そもそも生前の相続対策としての遺言書の作成や認知症に備えての任意後見契約がありますが、それよりも家族信託を活用する方がよいのでしょうか?

 まず、家族信託とは、委託者が信託契約によって信頼できる人(受託者)に対して財産を移転し、受託者は信託契約に定めた目的に従って受益者のためにその信託財産の管理・処分をする制度になります。信託財産が不動産の場合は、財産を移転することから、登録免許税(所有権移転登記は非課税ですが、信託登記は固定資産税評価額の1000分の4かかります。)や登記手続費用(司法書士の報酬)がかかります。遺言も任意後見契約も一定の費用がかかるという点では同じですが、信託の方が費用は多くかかるかもしれません。

 次に、認知症になってしまった場合は、遺言があるだけでは、家族は全く財産を自由に管理・処分できません。任意後見契約では、基本的に財産の管理・維持に重点をおきますので、処分をするには任意後見監督人や家庭裁判所の許可が必要になりますので、基本的に処分はできません。これに対して、信託では、信託契約の内容に基づき受託者の判断で、財産の管理・運用・処分ができますので、最も自由度が高く柔軟な対応ができるといってもよいでしょう。

 信託財産の課税については、委託者=受益者の自益信託のケース(通常は課税の問題が生じないようにするため、委託者父、受託者長男、受益者父とします。)では、信託財産は受益者が有する財産と考えますので、①信託設定時には所得税や贈与税が課税されることはなく、②信託期間中は信託財産から生じる収益は受益者に帰属することになり、③受益者死亡の時には新受託者に相続税が課税(信託受益権の評価は信託財産の評価額と同じ)されることになります。この点は、通常の相続と大きな違いはないでしょう。

 ただし、信託で最も気をつけなければならないのは、大規模修繕を近々予定しており赤字が見込まれるケースでは、不動産所得の計算において、1の信託契約に係る不動産所得に生じた損失は生じなかったものとされること(=つまり、信託以外の不動産所得との内部通算や他の所得と損益通算できないということ)です。この点が、信託の方法によった場合の最大のデメリットといえます。このほか、受託者は、年1回一定の時期に財産樹生興開示資料を作成して受益者に報告しなければならないという手間がかかります。

 でも遺言では実現できないことが信託では可能なこともあります。例えば、後継ぎ遺贈型の受益者連続信託といって、①妻との間に子供がいない夫が、夫の死後は妻を受益者とし、妻の死後は妻の兄弟に相続させるのではなく、自分の兄弟に承継させたいと望むケース、②夫が再婚したが妻との間に子供がいないが前妻との間には子供がいるケースで、妻に相続させた後、妻死亡後は前妻との間の子に相続させたいと望むケース、③特定贈与信託といって、障害を持つ子を有するケースで、親亡き後の生活費や療養費の支払のために障害を持つ子を受益者として信託銀行に金銭を預けて、信託銀行がその財産を管理するケース(このパターンは委託者≠受益者のため本来は贈与税が課税されるところ、上限3,000万円(特別障害者は6,000万円)までが非課税となっています。)などは、信託を活用すれば実現できますが、遺言ではこれを実現できません。①や②のケースで、妻にも遺言書を作成させて自分の兄弟や前妻との間の子に遺贈させる方法もありますが、妻が新たな遺言を作成することは防ぐことはできません。 このように、信託には信託でなければできないこともある反面、不動産所得で損益通算できないとか報告の手間があるなどのデメリットもあります。結局は、遺言書作成、任意後見契約の締結、信託契約などからその人のニーズに合った最もベストな組合せを検討することが望ましいということかもしれません。いずれにしてもお金がかかる話なので、安易に家族信託を行わないで、慎重に検討したいものです。

近いうちに生前贈与(暦年贈与)が廃止されるのでしょうか

 相続税と贈与税の一体化の議論の中で、毎年110万円の贈与税の非課税枠(暦年贈与)を活用した節税策に対する対応として、暦年贈与を廃止又は改正すべきであるとの意見があります。改正の方向はまだ不明ですが、背景には、相続時精算課税の適用者が年々減少し、この制度を活用して親の世代から子供への資産の移転が進んでいないことや、暦年贈与制度は富裕層が相続税の節税対策で活用しているという現実があるようです。

 改正の方向としては、贈与税は暦年贈与を廃止して相続時精算課税に一本化するか、あるいは、生前贈与加算の対象者を、相続又は遺贈によって財産を取得したか否かにかかわらず直系卑属に対する贈与を生前贈与加算の対象とし、生前贈与加算の対象期間を現行の3年以内贈与から10年以内贈与などに延長するなどの見直しとなることが予想されます。

 令和3年12月10日発表の税制改正大綱の中には、相続税法の改正はありませんでしたので、当面は贈与税の非課税規定は現行のままとなります。ただし、数年中には必ず改正される見込みであると思われますので、それまでの間は、暦年贈与の非課税枠を活用することができます。ただし、注意しなければならないのは、あくまでも暦年贈与の廃止までの間は、贈与したときの贈与税の非課税枠が活用できるだけであって、贈与者が、贈与時から間もなく死亡した場合には、3年(改正で10年や15年とかに延長になるかもしれません。)以内贈与として相続税の課税対象に含まれる可能性(リスク)があることを十分に認識して行ってください。