基礎から学ぶ遺言相続講座(遺言6)
遺言でできることと、できないことは?
1 遺言でできること(遺言書に定めておくことにより法的に効力が生じるもの)は、次のようなものがあります。
主に、遺産分けに関すること(①~⑤)と、人に関すること(⑥~⑩)の2つになります。
① 相続分の指定(民法第902条)
指定相続分といって、被相続人が相続人の相続分の割合を指定することができます。
② 遺産分割方法の指定(民法第908条)
例えば、長男に甲土地を、二男に預貯金を相続させるというように、遺産分割方法を指定することができます。このような遺言書がある場合は、遺産分割協議は不要となり、受遺者一人で相続手続ができます。
③ 遺贈(民法第964条)
遺言により、死後、特定の人に財産を無償であげることができます。
④ 特別受益の持戻し免除(民法第903条第3項)
共同相続人の中に被相続人から生前特別の利益(贈与、遺贈)を受けた者がいる場合、これを相続財産額に加算した上で各人の相続分を算定するのが原則であるところ、この特別受益を考慮しないで相続分の計算をするようにする意思表示です。
⑤ 遺留分侵害額の負担割合の指定(民法第1047条第1項第2号但書)
受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合にその贈与が同時にされたものであるときは、原則として、受遺者又は受贈者は、目的物の価額に応じて負担すべきところ、遺言書によって、その負担割合を変えることをいいます。
⑥ 推定相続人の廃除・廃除の取消し(民法第892条)
遺言により、特定の相続人に財産を相続させないことができます。また、廃除の取消をできます。
⑦ 子供の認知(民法第781条第2項)
遺言で、結婚していない男女の間に生まれた子供を認知することができ、これにより法的な親子関係ができるので、認知された子は財産を相続することができます。
⑧ 遺言執行者の指定(民法第1006条)
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な手続をする人であり、遺言で遺言執行者を指定することができます。
⑨ 祭祀の主宰者の指定(民法第897条)
遺言で、仏壇、仏具、お墓や家系図を引き継ぐ人を指定できます。
⑩ 未成年後見人の指定(民法第839条)
例えば夫を亡くした妻が、子供を育てているときに、将来自分の死後に子供を託す相手(未成年後見人)を遺言で指定できます。
2 遺言でできないことは、次のようなものがあります。
① 死亡直後の事務処理
死亡直後の事務、例えば、知人・友人・親戚・職場などへの死亡連絡、役所への諸手続、葬式、供養、入院代の精算、運転免許証の返納、スマホやパソコンなどのデータや各種アカウントの削除などは、遺言で事務を行う受任者を定めてもダメです(委任は、委任者の死亡によって終了するからです(民法第653条第1号)。)。これらの事務の委任は、家族や友人などと「死後事務委任契約」を締結することで行ってもらうことができます。
② 延命治療をしないこと
現在の日本では、病気や事故などで回復見込みのない末期状態になった患者に対して延命治療を中止して人間としての尊厳を保ちつつ死を迎えるといういわゆる尊厳死の法律は整備されておりません。このような場合に備えて、「尊厳死宣言書」を作成して、尊厳死の意思を家族に伝えておく方法があります。
③ ペットの世話
➀と同様に、死後の事務の委任を遺言によってすることはできません。この場合には、おひとり様で自分が死亡した後のペットの世話を知人に依頼したい場合は、知人との間で「死後事務委任契約」を締結することによりできます。
④ 婚姻、離婚、養子縁組
これらは、いずれも相手方との合意が必要な事項ですので、単独行為である遺言ではできません。
⑤ 債務の承継
債務については、相続発生と同時に自動的にその相続人に対して法定相続分の割合で承継されます。遺言によって債務を特定の相続人に承継させることは、債権者が全額回収できなくなるおそれが生じますのでできません。