基礎から学ぶ遺言相続講座(相続9-3)
限定承認を利用するには?
限定承認は、被相続人に積極財産もありますが、消極財産も相当あり、最終的にプラスになるかマイナスになるか分からないという場合に、相続財産限りで清算することとし、もしプラスがあれば相続するということを可能にする制度であり、相続人にとってはある意味では有利な規定となっています。
しかしながら、現実には、ほとんど使われておりません。それは、3ヶ月の熟慮期間内に財産目録を作成して、相続人全員が家庭裁判所に申述する必要があることです。限定承認は、限られた時間内に決める必要があり、しかも手続が非常に面倒なことと、共同相続人全員で限定承認の申述を家庭裁判所にしなければならないので、相続人間の足並みが揃わないとできないからです。
そうかといって、手続が面倒くさいからといって相続放棄をしてしまうと、例えば、自宅が相続財産になっていたときに、競売で処分されてしまい、愛着のある自宅にそのまま住むこともできなくなってしまい困ったことになります。
この点、限定承認を選択すれば、相続財産である自宅を換価(競売)するに際して、家庭裁判所が選任した不動産鑑定人の決定した評価額(公正な時価による金額)を弁済して、競売を中止させることができることです(先買権といいます。)。もちろんお金を支払う必要はありますが、愛着のある自宅を確保して継続して所有(居住)することができます。この点は、相続放棄ではできないところかもしれません。
ところで、限定承認を選択するときに注意したい点は、意外と盲点になっていますが、税務上の取扱いです。
すなわち、相続人、包括受遺者が、限定承認をした場合は、すべての財産を被相続人が時価で譲渡したものとみなして、被相続人に対して譲渡所得税が課されるということです(みなし譲渡所得、所得税法第59条第1項)。ただし、被相続人は死亡していますので、相続人がみなし譲渡所得に係る準確定申告を、相続開始があったことを知った日から4箇月以内に提出し、かつ、納税する必要があります。なお、この場合の譲渡にかかる所得税は、相続税の計算上、債務控除として控除できます。
この場合、特に注意したいのは、譲渡したものとみなされる資産の「時価」とは、相続税法の財産評価基本通達に定めに基づいて算定するのではなく、当該資産の客観的な交換価値(通常の取引価額)によることになるということです。したがって、所得税(譲渡所得)の計算上は、譲渡金額が思った以上に高くなってしまうことです。このような取扱いとなっている理由は、被相続人が保有していた期間に係るキャピタルゲイン(値上がり益)を一旦相続の時点で清算することとしているからです。
このように、限定承認を選択する場合には、3か月間の熟慮期間のうちに、財産・債務の状況を把握して、しかも4か月以内に譲渡所得に係る準確定申告の申告と納税をする必要がありますので、非常に大変ですので、注意してください。相続開始前から、財産・債務を把握していて、所得税の準確定申告書も予め検討しているようなケースでもないと、なかなか使えないかもしれません。
限定承認は、非常にメリットがあるような制度に見えますが、上記のようなデメリット(盲点)もありますので、よく検討して選択してください。