基礎から学ぶ遺言相続講座(相続11)
限定承認を利用するには?
限定承認は、被相続人に積極財産もありますが、消極財産も相当あり、最終的にプラスになるかマイナスになるか分からないという場合に、相続財産限りで清算することとし、もしプラスがあれば相続するということを可能にする制度であり、相続人にとってはある意味では有利な規定です。
しかしながら、現実には、ほとんど使われておりません。それは、熟慮期間内に財産目録を作成する必要があるなど手続が非常に面倒なことと、共同相続人全員で限定承認の申述を家庭裁判所にしなければならないので、相続人間の足並みが揃わないとできないからです。
そうかといって、面倒くさいからといって相続放棄をしてしまうと、例えば、自宅が相続財産になっていたときに、競売で処分されてしまい、愛着のある自宅にそのまま住むこともできなくなってしまい困ったことになります。
この点、限定承認を選択すれば、相続財産である自宅を換価(競売)するに際して、家庭裁判所が選任した不動産鑑定人の決定した評価額(公正な時価による金額)を弁済して、競売を中止させることができることです。もちろんお金を支払う必要はありますが、愛着のある自宅を確保して継続して所有(居住)することができます。この点は、相続放棄ではできないところかもしれません。
もう一つ、限定承認を選択したときに注意したい点は、意外と盲点になっていますが、税務上の取扱いです。
すなわち、相続人、包括受遺者が、限定承認をした場合は、相続、包括遺贈された財産を被相続人が時価で譲渡したものとみなして、譲渡所得税が課されるということです(所得税法第59条第1項)。したがって、相続人は、みなし譲渡所得に係る準確定申告を、相続開始があったことを知った日から4箇月以内に提出する必要があります。なお、この場合の所得税は、相続税の計算上、債務控除ができます。
この場合、特に注意したいのは、譲渡したものとみなされる資産の「時価」とは、相続税法の財産評価基本通達に定めに基づいて算定するのではなく、当該資産の客観的な交換価値(通常の取引価額)によることになることです。したがって、所得税の計算上は、譲渡金額が思った以上に高くなってしまうことです。このような取扱いとした理由は、被相続人が保有していた期間に係るキャピタルゲインは、一旦その時点で清算するのが望ましいという趣旨からとなっています。
限定承認は、そもそもこれをすること自体が非常にまれなケースであり、しかも、税務申告に関しても、ほとんど聞いたことがないような盲点となっていますので、注意したいところです。