基礎から学ぶ遺言相続(相続14)
相続税が課税される財産とは?
民法でいう相続財産とは、被相続人に帰属していた一切の権利義務のうち、相続人又は受遺者が「相続又は遺贈により取得した財産」をいいます(「本来の相続財産」といいます。民法第896条参照)。もちろん民法の上でも、公平な遺産分割を実現するという観点から、特別受益者の特別受益を本来の相続財産に加算した金額をもとに、具体的な遺産分割を検討することになっています。
ところで、相続税法でいう相続税が課税される財産(=課税価額)は、この「本来の相続財産」とはかなり範囲が異なっています。
具体的には、相続税法上の課税価額を算定するに当たっては、①民法でいう「本来の相続財産」に、②死亡生命保険金や死亡退職金などの「みなし相続財産」(本来は相続財産ではないけれども、課税の公平の観点から相続財産とみなしています。)を加えて、さらに③生前贈与財産である相続時精算課税の選択をした財産や、相続開始前3年以内(※令和6年1月1日以降から順次7年以内に延長されます。)に暦年贈与された財産を加えて合計金額を算定し、この合計金額から、被相続人に係る債務や葬式費用を控除した金額をいいます。
このような複雑な計算をする理由は、相続税の課税の公平を図るためということにあります。
「みなし相続財産」についてみると、例えば、死亡生命保険金は、法律的には、相続人が「被相続人から相続又は遺贈により取得した財産」ではありません。その理由は、死亡生命保険金は、死亡保険金の受取人が生命保険契約に基づいて取得するものですので(つまり、相続人は死亡生命保険金を原始取得することになります。)、被相続人から相続又は遺贈により取得した財産ではないことから、本来は相続財産には当たりません。しかしながら、実質的には、相続又は遺贈により取得した財産と同様の経済的効果がありますので、課税の公平を図るために、相続財産とみなして相続税を課税することとしています。
生前贈与した相続時精算課税に係る財産については、相続時に精算することを条件(相続時精算課税は、贈与時の課税を繰り延べることにより、若年世代へ早期に資産移転を図るという目的です。)に贈与した財産ですので、相続に際しては当然に相続財産に持ち戻して精算することが求められています。
一方、相続開始前3年以内に暦年贈与した財産については、相続税を節税する目的で事前に贈与したものと考えられますので、相続税及び贈与税の課税を一体課税して調整するという観点から、一定の範囲内(相続開始前3年以内)のものに限定して相続財産に取り込んで課税しようというものです。
このように、民法の相続法と税法の相続税法とでは、概念や取扱いが少しずつ異なっていますので、この点に注意しながら理解していく必要があります。